装用障害

総論的事項

コンタクトレンズによる眼障害は、一般的にfittingがtightで角膜上でのレンズの動きの少ない場合に生じやすい。
●急性障害: 角膜浮腫・びらん・潰瘍(感染合併例)

●慢性障害: (ハードコンタクト > ソフトコンタクト)角膜知覚低下、CL迷入、眼瞼下垂
(ハードコンタクト < ソフトコンタクト)輪部角膜新生血管、角膜内皮障害、巨大乳頭結膜炎

 

報告により若干の相違はあるが、一般に
 障害発生頻度順: PMMA-HCL>SCL>RGPL

 重篤度順: SCL>PMMA-HCL>RGPL であるといわれている。
障害時の自覚症状では眼痛・充血・視力低下が主であり、急激で激しい疼痛は迅速な処置を要するが、慢性の掻痒感や刺激症状はただちに治療を要するものではない。

<<コンタクトレンズ装用で惹起される炎症経過>>

●初期反応: 炎症初期には組織破壊が起こり、細胞膜リン脂質中の高度不飽和脂肪酸(アラキドン酸等)からPG、LT等が産生される。CL装用者特にGPC患者ではLTB4、C4が有意に検出され、白血球遊走亢進、白血球活性化、血管透過性亢進等の生理機能から肥満細胞・好酸球・好中球等が浸潤する。この、局所浸潤した肥満細胞上のIgE抗体と涙液バリア破壊によって進入・滞留した抗原が反応し、肥満細胞の脱顆粒が生じヒスタミン等のchemical mediatorが放出、掻痒感・眼脂・充血等の自覚症状に至る。アレルギー素因を有さないCL装用者の涙液にも非装用時と比較して有意なヒスタミン上昇が報告されており、CL装用のみですでに一連のsubclinicalな免疫反応が起こっていると理解すべきである。

●炎症高度眼: 炎症反応が高度になったCL装用者の涙液中にはIL-8、regulated activation, normal T-cell expressed and secreted cytokines (RANTES)等の走化性因子やIL-6、TNF-α等の炎症性cytokinesが検出されている。走化性因子は好中球・好酸球・好塩基球・肥満細胞等各種細胞の浸潤を促進させ、一方炎症性cytokinesはT cell等免疫担当細胞の浸潤・活性化・各種細胞の増殖を示唆する。さらにGPCの結膜上皮細胞からはICAM-1、HLA-DR、浸潤T細胞からはCD4+、CD45RO+、HLA-DR+の細胞表面分子の増加が確認されている。ICAM-1は結膜上皮・眼表面に種々の細胞を浸潤させ、そこに維持する機能があり、HLA-DR分子の発現は結膜細胞の抗原提示能が上昇していることを示している。

自覚症状からのアプローチ

1)疼痛: 急性のoverwearing syndromeあるいは細菌性角膜潰瘍の初期症状

2)灼熱感: 慢性障害でしばしば認められる。洗浄液・保存液などのソリューションによる化学的刺激の場合は装用直後から生じるが、涙液分泌減少の例などではCL装用時間が長くなるにつれて増強してくる。

3)掻痒感: レンズ表面の沈着物に対するアレルギー反応であることが多く、粘液分泌もしばしば合併する。花粉症など季節的アレルギー状態を有するCL装用者では、当該季節になると掻痒感・粘液分泌により装用時間が短縮する。

4)不快感: きわめて長期間CLを装用していると漠然とした眼の不快感を訴えることは普通;それによりCL装用時間が短縮したり、自覚症状が次第に増強してくるようであれば、他症状についてよく問診し原因を明らかにしていくことが必要となる。fitting不適切、角膜乾燥症、巨大乳頭角膜炎の有無についても必ず調べる。

 5)充血: 特に結膜の充血はCL装用でよく認められる症状であるが、急性の明瞭な充血では角膜浸潤・潰瘍の可能性もあり精査する。軽度の慢性充血は化学的過敏症を有する者によく見られる。アレルギーや角膜乾燥症では充血は必ずしも全例には認められない。またCL装用者に眼瞼結膜炎が偶発することも稀ではない。

6)視力低下: spectacle blurのような可逆的なものでない、CL装用に起因した視力低下は角膜の炎症や虹彩炎を疑う。特に、化学的過敏反応や不適切装用を是正せずに長期間装用していると、角膜混濁による視力低下の可能性がある。角膜混濁瘢痕は、CL装用による視力障害のうち唯一永続的となりうるものであるのでよく注意して観察する。

角膜障害

角膜の透明性を維持するために角膜上皮は活発な代謝作用を営んでおり、そのための酸素要求量も大きい。従って角膜表面を覆ってしまうCLの装用によって多少とも角膜上皮は以下のような障害を生じる可能性がある。装用者の異物感・違和感などの自覚的訴えはこれらの障害の診断上重要である。

[1]角膜上皮障害のメカニズム

<<角膜上皮酸素分圧の低下>>
PMMA-HCL、低含水率SCLの長時間装用で生じる角膜上皮浮腫(次項参照)、いわゆるoverwearing syndromeの原因と考えられている。この問題点を解決するためにRGPLが開発されたわけであるが、角膜への酸素供給経路には、 CLを透過する経路以外に涙液交換を通して供給される経路もあり、また角膜の酸素摂取率にも個体差があるので、 DK値の高いCLを装用することは必ずしも角膜上の酸素分圧の向上につながらないことには留意が必要である。
生理的に角膜上皮には開瞼時155mmHg、閉瞼時55mmHgの酸素分圧が供給されることが知られており、臨床的には少なくともこれ以上の酸素分圧が保たれることが望ましい。角膜の低酸素状態が続くと、各種の代謝変化(lactateの蓄積によるpH低下=局所acidosis、浸透圧上昇、CO2蓄積など)を通じて角膜上皮内のmicrocystやvacuoleの形成、大小不同化polymorphysmといった形態的変化も生じることが知られている。角膜輪部palisade of Vogt延長上の茶褐色の淡いスパイク状色素沈着(pigmented spike)やまた角膜内皮障害(→[3])も酸素不足からもたらされることと言われている。

<<涙液層の障害>>
濱野らは、綿糸法で涙液量が10mm以下の症例では1/4例に角膜障害が発生することを報告しており(日コレ誌 28:104-107(1986))、基本的にドライアイ患者にはCL装用を勧めるべきではないと考えられる。また、本来は涙液層が正常であっても、CL装用によって角膜上皮障害をきたす例があり、これには、CL装用によって角膜知覚が低下し涙液分泌の減少をきたすメカニズムと、特にHCLの場合には瞼裂付近のHCL両脇の涙液がエッジに吸い込まれてbreak upしてしまい、局所的なドライアイが生じる(3-9 staining)ことが考えられている(最近、涙液のlipid層がレンズ下に閉じこめられ、ムチン層が破壊される機序も想定されている)。 SCL装用者で見られることのある角膜中央よりやや下方の細長い表層角膜炎も本質的には同様の局所的ドライアイによる発生機序が考えられており、 CL装用により涙液のbreak upの仕方が変化することとレンズの種類によりbreak upしやすい部分が異なることがこのような発現の相違として現れるものとされる。

<<涙液交換率の低下>>
角膜上の涙液は、通常の状態では瞬目により速やかに交換されるが、 CL装用時には交換が妨げられる(涙液交換率はHCL装用時で20%程度、SCL装用時で2-3%程度にまで減少すると言われる)。 CL装用による涙液交換率の低下はCL下への異物・汚れ成分の沈着→CLの固着・角膜上皮障害をきたすことになる。従って涙液交換の観点からはHCLの方がSCLより好ましいということになるが、 HCLであってもフィッティング不良等があると涙液交換率は大きく低下する。また、特にSCLにおいては、CL装用時に点眼薬を用いるとCLに薬剤・防腐剤が吸着されて角膜上皮障害の原因となることがある。時にCLの洗浄剤や蛋白除去剤、消毒剤の残留も角膜上皮障害の原因となりうる。

<<結膜アレルギーの存在>>
CL装用によって生じるアレルギー性結膜炎は、巨大乳頭結膜炎(GPC;Allansmith)、特に最近ではcontact lens-related papillary conjunctivitis(CLPC)と呼称されている。 I型のアレルギー反応で、IV型も関与すると言われる。 SCLによるものが有名(発症頻度5%前後)であるが、HCL特にレンズの汚れを生じやすいRGPLによっても生じる(同3-5%)。 GPCは、後述のような各種の自覚症状・他覚所見をもたらし(→結膜障害)その中に角膜上皮障害も含まれる。発症機転としてはGPC時にmast cellから放出される各種の障害性顆粒蛋白が想定されている。いずれにせよ、CL装用時の原因不明の角膜上皮障害を認めた場合には、GPCを疑って上眼瞼結膜を観察することが必須。

<<微生物の付着>>
角膜感染症はCL合併症のうち最も重篤なもののひとつである。感染症成立の機序として

1: CLが微生物を結膜嚢内に移行させる働きをもつ

 

2: CLの存在により、涙液や角結膜上皮などの局所的感染防御機構の機能低下が生じる
(涙液ムチン層の破壊の関与も想定されている)

3: CL装用により角膜上皮の脆弱化が起こり、微生物が付着しやすい状態になるなどが挙げられている。病原微生物はほとんどが細菌であり、一部真菌やアメーバによりもたらされることもある。細菌のうち特に緑膿菌が重視されている(多糖類が菌の付着と関係する?)が、起炎菌が同定できないことも多い。発症の危険因子としてはHCLよりもSCL、終日装用よりも連続装用の方がリスクが大きく、特に無水晶体眼へのSCL連続装用には注意が必要。


<<連続装用>>
連続装用の場合、就寝時=閉瞼時にCLを装用しているため、その間の酸素分圧はDK=50のRGPLでも32-44mmHg程度とかなり低くなり、また涙液交換はほとんど起こらないと推定されている。更に閉瞼時では、レンズ下だけでなく結膜嚢内の涙液turn overも低下しており、涙液性状も異なっていることが分かってきている。これらの点から連続装用では高率に合併症を生じやすく、角膜潰瘍発症の相対危険度は終日装用の10-15倍という報告もある(Schein et al.New Engl.J.Med.321:773-778(1989))。坪田らによるとRGPLはSCLに比べて連続装用の際に角膜上皮に与える影響が少ないという(あたらしい眼科 8:965-969(1991))。これはDK値によるよりも涙液交換の相違が大きく関係しているようである。更にSCLではバンデージ効果により上皮細胞の脱落が抑制され、上皮の正常なturn overや分化が阻害されている可能性もある。アメリカFDAでは、長期連続装用は問題が多いとして、1週間以上の連続装用を禁止している。

[2]角膜障害の臨床

<<角膜微小嚢胞microcyst形成>>
角膜の低酸素症を示す最も早期の症候のひとつ。SCLの連続装用者に見られることが多い。 CL装用15分くらいで出現し、レンズ脱ですぐ消失する。角膜上皮深層において形成されるもので、直径15-50μmの上皮細胞封入体であり、角膜上皮の脆弱性・易感染性を示唆する重要な所見であると言える。連続装用の場合終日装用に、また高DKのRGPLに変更する。

<<角膜上皮浮腫>>
上皮剥離(次項)と同様、角膜酸素不足により生じる。自覚症状:羞明・spectacle blur・灼熱感・掻痒感。過長装用時間・フィッティング不良・汚れ付着による涙液交換不良等によりもたらされることが多い。細隙灯顕微鏡検査でスリット幅を狭くし、角膜輪部付近へ斜め方向から光を当てて間接光にて観察する(間接照明法)事で角膜中央部に境界不明瞭(重度例)~明瞭な類円形の上皮内混濁=角膜中央部混濁central circular clouding CCCを認める(断面をやや隆起)。本症は装用中止により直ちに(10-20 分)消失することが多いが、浮腫が持続すると上皮細胞の一部破壊・脱落により小点状蛍光染色を認めたり、浮腫が実質に及んで角膜内皮・デスメ膜レベルに長さ1-3mmの線条を認めることもある。 RGPL長期装用例では、慢性の角膜浮腫が角膜曲率半径に影響していることもあり、CL変更に際してはこのことも充分考慮に入れる必要がある。 SCLでは、角膜密着型レンズであるため角膜上皮損傷の閾値も下がるため中央部のみならず角膜周辺部にも上皮・実質の浮腫を呈しやすい(特に低含水のもの)。オフィスなど乾燥した環境におけるSCLのsteep化による角膜上皮浮腫もある。ただし長期間の装用により浮腫の消退傾向(角膜の馴化)が見られる。

<<角膜上皮剥離・びらん>>
CL装用が許容時間を超過したり、CLを装用したまま就眠してしまう際に生じる障害(overwearing syndrome)で、 CLを装用している間は無症状であるが、レンズを外すと激しい疼痛を生じることが特徴的であり、レンズの上皮に対する物理的障害(ベベル幅が狭いなど)、涙液移動阻害に伴う上皮代謝障害によって生ずる。
他覚的には角膜上皮浮腫と表層上皮細胞[翼状細胞まで]の剥離(点状表層角膜症superficial punctate keratopathy:SPK)が認められる。

SCL: びまん性のもの、瞳孔領下極に限局するもの(smile mark pattern)高含水SCLの連続装用例に多く、またdry eyeの患者や瞬目の浅い者に多い;人工涙液頻回点眼・FRCL or 厚低含水性SCLへの変更、上輪部に局在するもの、角膜輪部に沿った弓状のもの

 HCL: びまん性のもの、3-9 staining、瞳孔領中央付近のもの等

SPK自身は通常CLを1日はずすだけで治癒するが、原因に応じた適切な処置を行わないと再発・重症化し、拡大して偽樹枝状びらんを生じたり[末端がterminal bulbでなく先細りになっていることからヘルペスと鑑別できる;疼痛は瞬目により神経終末が刺激されることと、虹彩・毛様体の二次的炎症による]病変が高度になると浮腫は角膜実質に波及し、円板状角膜混濁を見る。この際角膜内皮層にも皺襞形成を伴うことがある。ただし症状が重篤でなければ通常数日間の経過で痕跡を残さず治癒する。レンズへの汚れの付着が著しい場合、更に角膜潰瘍等に進行することがある(→後述)。 RGPLでは、角膜上皮に重篤な障害が起きても自覚症状に乏しいことがあり、定期検査の重要性が裏付けられている。
最近では、MPS使用による薬剤毒性(バリア機能障害・細胞増殖抑制)から充血を伴う角膜浸潤を生じることがある。

角膜上皮剥離・びらんの治療: 原則は上皮修復までの自覚症状を軽減することである。刺激性の少ない抗生物質含有眼軟膏の点入・眼帯装用により瞬目による刺激を避け、鎮痛剤を使用して局所安静を保つ。
涙液層障害の疑われる例(4時・8時方向の周辺部角膜にびらんを形成する輪部露出角膜炎limbal exposure keratitis・下方固着)では、人工涙液の頻回点眼が必要。ヒアルロン酸点眼薬を上皮障害に用いると一般に数日で症状は改善する。
またレンズのカーブが大き過ぎて下方固着し弓状の角膜びらんを生じたり、レンズサイズが大きくてカーブがややtightの際に、レンズ中央下に気泡が集まって角膜を圧迫したdimple veilが形成されている際には、レンズサイズを小さくしたりBCを大きくして対応する。またHCLのfittingが不良の場合、時として角膜に不正乱視を生ずることもある。原則としてsteepなCL処方は避ける。またCL再処方の際には、検査前の数日間はCL装用を中止させることが望ましい。

<<上輪部角膜炎superior limbic keratitis(SLK)>>

上方球結膜・瞼結膜に特に著明な充血・瀘胞形成・角膜輪部の浮腫・上皮びらんで、塗抹標本にて角化上皮細胞が検出される。 1%硝酸銀をガラス棒に塗布し1-2分間洗浄することを3-7日毎に数回繰り返すと有効である。これもsteep fittingのことが多く、特にB&Lのような、spin castによるSCLを角膜曲率半径の大きな患者に処方する際にsteepとなることが多いので注意する。

<<角膜血管新生>>
特にSCLの長期装用者に見られる。 発生原因の一つに装用時間の過長およびtight気味のfittingがある。 BCが小さめであると装用感も良く、視力もよく出るのでとかく処方されがちであるから注意が必要である。 HCLでもRGPLで直径の大きいものや厚いものでは生じることがあり、角膜には上皮障害がなく他にも異常の認められない症例にも生じうる。角膜輪部から表層性の血管が侵入し、先端はループを形成する。血管に沿った混濁の認められることもある(終日装用で0.5-5%、連続装用で3-12%)。慢性的な角膜の酸素不足による症候であるから、輪部より2mm以上侵入している場合には現用レンズ装用を中止し、 sizeは小さめ、BCの大きめのレンズに交換(瞬目時に1-2mmの動きはあるように)することで進行を阻止することが出来る。できあがった新生血管も適切なレンズ交換後数週間で消退する。 SCLの場合RGPLに変更する、またFRCLもよい適応。

<<角膜浸潤・角膜潰瘍(角膜感染症)>>
表層角膜炎に感染が生じ、実質表層に及ぶ境界不明瞭な混濁巣を生じるのが角膜浸潤である。 tight fittingによる角膜への酸素供給不足が無菌性角膜浸潤を招来することもある。軽症の場合は輪部にわずかの毛様充血を認めるだけ(contact lens induced peripheral ulcer CLPU [Holden])であるが、進行すると境界不鮮明な円形混濁からやがて角膜全層に及び前房微塵が出現する。軽症例ではCL装用を数日間中止して抗菌スペクトラムの異なる複数の抗生物質を頻回点眼する程度で病変は治癒するが、進行例ではこの他に抗生物質の全身投与を行い、さらに抗生物質を結膜下注射するなどして早急に治療する。終日装用例では夜間レンズを外していることにより軽度の角膜障害は修復され、あまり重症化しないことが多いが、連続装用例では自覚症状の早期に対処しないと進行しやすい(→連続装用レンズ)。長期連用によりIgA・リゾチームの低下することが報告されている。角膜感染症は、HCLに比べSCLで特にもたらされやすい。これは、HCLに比べてSCLの方が密着性が強く、角膜・結膜表面に貼り付く上にレンズ下の涙液交換は少ないので瞬目ごとに大きな摩擦が生じ、角膜上皮浮腫・びらんを起こしやすく、感染に対する抵抗力が減弱しているためである(HCL:酸素欠乏型角膜障害;SCL:密着型角膜障害)。頻度的には、装用に慣れて定検をさぼったりした時に生じやすい障害で、レンズが古いほど有所見率は高いが、今述べたような特性から、新品SCLでも、特に冬季乾燥期には生じ得る。
角膜浸潤が進行すると潰瘍形成に至る。SCL(連続装用)例に時に発生が見られるもので、HCLではあまり見られない。
[1]でも述べたように、細菌感染は緑膿菌(Pseudomonas)によるものが多く、時に真菌感染(Candida、Aspergillus)も生じる。また最近ではアカントアメーバによる角膜感染症が欧米で急増している。これは角膜真菌症ないし角膜ヘルペス類似の病変で、眼痛が著しいのが特徴である。いずれにしても早急に菌を同定して感受性の抗生物質(ネオマイシン)ないし抗真菌剤(ミコナゾール)を選択し、治療(頻回点眼、結膜下注射、全身投与)を行う。組織の不必要な破壊を防ぐためステロイド剤の結膜下投与も併せて行う(→角膜真菌症、アカントアメーバ角膜炎)。

<<角膜知覚低下>>
HCL装用により角膜知覚は著しく低下する。数年以上にわたる長期間のHCL装用では、非装用時の角膜知覚も次第に低下する。また、SCL装用例では角膜知覚低下は軽度であるが、SCL装用眼における角膜障害遷延化の原因は角膜神経そのものの変化である可能性が示唆されている(濱野孝:臨眼 35;1951-5,1991)。 fitting不良のCLの装用者、high power CL装用者や高度の角膜乱視を持つCL装用者では、レンズの厚みや刺激による瞬目回数増加もよく見られる所見である。

<<角膜形状変化corneal warpage>>
HCLの下方固着・長期にわたるsteep fitting、またSCL装用によって角膜形状変化の生じることが知られている。自覚的にレンズ装用感の悪化、他覚的にフォトケラトスコープ・マイヤー像の歪み(さざ波現象)をきたす。 Steep・flatいずれでも生じる。これを利用したのがorthokeratology。

[3]角膜内皮障害

PMMA-HCLにおいて、慢性の角膜浮腫・角膜知覚低下の他に角膜内皮細胞の著明な大小不同がほとんど必発する(変動係数CVの増大)ことが明らかになってきた(MacRae et al,:Amer.J.Ophthalmol.102;50-57,1986)。これは長期に低酸素状態が続くことによる角膜内皮細胞の機能低下によるもので、 PMMA-HCL(15年以上)のみならず0.2mmほどの厚いSCLの長期装用(10年以上)によっても、角膜の水分代謝不全を示す実質浮腫や血管新生とともに認められるようになる。角膜内皮障害を基調とするこれらの状態は角膜消耗症候群corneal exhaustion syndromeとも呼ばれる(Holden BA, Sweeney DF:Amer.J.Optom.Physiol.Optics 65;95,1988)。最近では低酸素状態のみならず、CO2のレンズ裏面への蓄積からpH低下が発症に関わっているとも言われている(Schl ssler JP & Orsborn GN:Curr.Eye Res.6:301-306,1987)。こうした低酸素症・眼局所アシドーシスを防ぐためには終日装用で最低34、連続装用では87のDK値が必要とされる。また特にsteepに処方されたCL例では内皮細胞への影響が大きいと考えられており、注意が必要である。スペキュラーマイクロスコープによって、PMMA-HCLや連続装用SCLの装用例で認められる角膜内皮のbleb形成はこの酸素不足・局所アシドーシスを示すものと言われる。 CLのタイプと装用後内皮障害発症までの期間は報告により大きく異なる。また一旦生じた内皮障害の可逆性についての報告も種々であるが、少なくとも短期間(数カ月-数年)で全く消失することはなく、またCL装用期間が長くなるに従って内皮形態異常の可逆性は減じていく。
特に内皮細胞密度減少に注意すべき主訴として、起床時の視力低下がある。これは、内皮細胞密度減少が実質浮腫をもたらして瞳孔領に及ぶ角膜肥厚・Descemet膜皺襞が視力低下を来すもので、就寝時閉瞼により増強、残存内皮機能により徐々に回復するための現象である。
CLにより内皮細胞数が減少していくと、やがて角膜の透明性を維持できなくなるレベル(ca.500 cells/mm3)にまで内皮細胞が減少し、水疱性角膜症を生じる可能性がある。特に白内障手術などの内眼手術による内皮障害を併せ持つ場合の影響は重大である。こうした深刻な長期予後を防ぐためにはなるべく高DKのCLをしかも終日装用に留める必要がある。
SPMでは細胞面積の変動係数CV≦30%でも2000 cells/mm3<の場合要注意、同1500<は重症と見なす。

結膜障害

[1]炎症反応


レンズが安定した位置にある際エッジが角膜から逸脱している場合、球結膜を圧迫して結膜障害を生じることがある。レンズのエッジが鋭利でありすぎたり研磨が不充分だったりしても結膜変化を生じる。具体的には充血・微細な出血・乾燥局面(dry spot)の出現などがある。この際角膜にも浮腫・混濁・血管新生等を伴うことが多い。また慢性反応として結膜円蓋部の瀘胞形成を見ることもある。


[2]結膜アレルギー


代表的なものとして瞼結膜の乳頭増殖(φ1mm以上)を伴うGPCがある。本症は本質的には通常のアレルギー性結膜炎と同様の病態である。主訴としては、初期には掻痒感・眼脂・充血や粘液分泌の増加、レンズ白濁(coating)による視力低下が認められ、進行すると上眼瞼結膜全体が肥厚し、装用CLが上方に引き上げられcentering不良となる(乳頭増殖を示唆する)。乳頭は他の結膜炎と同様に軽症例では上眼瞼瞼板後面上縁に微細なものが並ぶが、症状の進展によってその範囲は拡大していく。特にSCLでは増殖性変化を生じることもあるが、名称のごとく巨大乳頭形成に至ることは稀である。眼脂も糸を引くように粘稠となり、起床時には多量で開瞼困難なことすらある。結膜充血・浮腫は著明で、結膜上にsheet状にmucusが沈着する。増殖性病変を示す例では瀰漫性表層角膜炎を随伴することがあるが、春季カタルでのような重篤例は少ない。これは本症罹患年齢が春季カタルよりも高く、アトピー性素因も軽度のものが多いためと考えられる。


<<発症機序>>

本症はCLに付着した涙液蛋白・脂質・糖蛋白等の汚れが、細菌・真菌その他の抗原性物質を更に付着させアレルギー反応をもたらすと言われる。結膜にはリンパ球、形質細胞、好塩基球、好酸球などが浸潤する。アレルギー素因を有する者のCL装用はアレルギー結膜炎を誘発する危険性があるためこのような素因者はCL処方に際しては慎重に考慮し、出来れば避けることが望ましい。ただし本症発症には、患者の素因に加えてlens fitting、lens径、1日装用時間、レンズ汚れ(付着物)等が大きく関与している。 SCLでは沈着物が付着しやすい他、煮沸消毒に際して付着した蛋白質が変性し抗原性を獲得することも推定されている。そのため、こうした症例にはコールド消毒は有効である(→メインテナンス)。


<<治療>>

最善の方法はCLの装用を中止することであるが、実際には本人が強く装用を希望したりして中止しえない例が少なくない。このような場合にはレンズの洗浄を徹底させ(終日装用の場合は毎日、連続装用の場合は少なくとも週1回)インタール点眼を行うことで軽快を図れることが多い。自覚症状が増強し乳頭の数も増加してくる中等症に対しては、できればSCLはやめて、インタール点眼による乳頭の縮小後にRGPLかPMMA-HCLに変更していく(or DSCL使用)。ただしRGPLでもエッジデザインの不良による上眼瞼結膜刺激?GPCは少なからず報告されている。重症例ではステロイドの使用も考慮する。

コンタクトレンズの種類による特徴的障害

[1]HCL


本タイプでは角膜周辺部の3時および9時の位置に上皮障害を生じやすく、フルオレスセイン染色で同部に点状または三角形上の染色所見が認められる(3-9 staining)。

grade分類(Schnider CM: Contact Lens Forum 5(9) 101-6, '90)

0: (-)  

1: stippling  

2: slight punctate staining  

3: moderate punctate staining with injection  

4: severe punctate stainig with dellen


自覚的には短時間での充血を訴えられることが多い。特に角膜径・瞼裂が大きく瞬目が不完全になりやすい症例(眼のぱっちりした女性など)で、直径の小さいレンズを装用すると生じやすいとも言われているが、逆にレンズが角膜径に対して相対的に大きい例でも見られる(長年PMMA-HCLを問題なく装用していたのにRGPLに変更後充血を訴える場合など)。基本的にはレンズの角膜形状不適切によりCLベベル部である3/9時部の涙液還流が不良となり(ベベルの浮き上がりが小さいため)、レンズの機械的刺激を受けることが病因とされる。このような場合瞬目も不充分となりレンズに汚れが付着しやすくなる(wetな汚れ)。逆にベベル幅が広すぎエッジの浮き上がりが大きすぎる場合(直乱視が強く、フルオレスセインパターンが分かりづらいのでsteepなまま処方された場合など)むしろ涙液がエッジに沿ってレンズ内面を多量に流れてレンズ表面に流れにくくなり、いわゆるdryな曇りを生じる。障害発生を促進増悪させる因子として瞼裂斑・結膜炎・涙液減少症などの角結膜異常、レンズの角膜位置関係の異常等が考えられている。 RGPLではPMMA-HCLよりも本症発生が多いと言われる。これはデザインの問題が大きいと思われる。非球面カーブ、マルチカーブ、カスタムメイドCLなどをtrialし、角膜乾燥に対しては使い捨て人工涙液・ヒアルロン酸を点眼。レンズ装用後数カ月で急激に悪化してくる場合はレンズの汚れを疑い、つけおき洗浄している例ではこすり洗いをさせる。
またレンズが上方/下方固着している場合視力不良で低矯正と誤解することがあるので注意が必要である。下方固着は、一般的にレンズが瞬目の際に充分上方移動しないことで生じ、原因としては不自然で浅い瞬目、大きい瞼裂、下三白眼、角膜直径が大きい、レンズが小さい、レンズがsteepないしflatに処方されている、などがある。 VDT作業・読書などによる瞬目回数の減少も下方固着の原因となる。
自覚症状としては「装用して数時間するとひどく充血する、レンズの圧迫感があり装用できない」といったものが多く、本人が瞬目の浅いことやレンズ固着を自覚していることは稀である。しばしばレンズ脱後の裸眼視力低下、眼鏡による矯正視力低下を訴える。
細隙灯検査では、瞼裂に一致した眼瞼結膜の充血、角膜周辺部の 3-9ないしより下方の4-8 stainingが生じ、角膜圧痕を認めることもある。レンズのフルオレスセインパターンは一見良好であるので、瞬目の状態をよく観察する。フォトケラトスコープでは、レンズ上方のエッジに一致した部位のリングが歪んでいることが分かる。
対策としてはまず数日間はレンズ装用を中止することが必要である。下方固着時の角膜曲率半径やフルオレスセインパターンは正確でないので、レンズ変更・修正のためにも必須である。ただし本人は、上述の裸眼視力・眼鏡での視力の低下を理由に装用中止をいやがることが多いのでよく説明しておく必要がある。レンズ径やフィッティングに問題のある場合は BC(steep化)やサイズを変更する。レンズ前面に溝加工を施すとレンズが引き上げられやすくなり、症状が劇的に改善することがある。瞬目が不充分なままではいつまでも下方固着の改善しないことがあるので、充分な瞬目を指導する。ハード系CL未経験者では、レンズの動きによる異物感を恐れて浅い瞬目が習慣となる可能性もあるので、RGPLではPMMA-HCL以上に瞬目指導が必要となる。どうしても浅い瞬目が習慣化している症例では、眼鏡や(角膜乱視の軽度な例)SCLに変更する必要も出てくる。またHCLの長期装用例では眼瞼粗造化・乳頭増殖などの(上)眼瞼変化が認められやすいと言われる。これには沈着物への抗原反応・レンズ表面の機械的影響などが考えられるが、いずれにせよ適切なレンズ交換と酵素洗浄で防止できる。またレンズが上方安定で上眼瞼のくわえ込みが強い状態が長期間続いているような例では眼瞼下垂がもたらされるという。治療はレンズの完全中止(6ヶ月以上)。
最近、長時間市販の洗眼液を用いている例で角膜上皮障害を認めることがある。

CL脱後眼鏡をかけると一時的に視力が低下する現象=spectacle blurは、大抵角膜浮腫により生ずるが、CLの過矯正でも生じ得る。長時間続くものではfittingの再検討が必要である。またPMMA-HCLには酸素透過性がないので、短期装用でも角膜浮腫を、長期的には角膜変形や内皮障害からレンズ装用に堪えられなくなる角膜疲労症候群corneal exhaustion syndromeをきたす可能性があるとして恐れられている。このような状態でも、高DK RGPLに変換することで、レンズ装用の中断なく自覚症状の改善-消失を図ることができる。

[2]SCL


HCLで生じる障害に加えて、レンズが角膜に吸着し瞬目に際して上皮を剥離する可能性があり、さらにこのような障害部位から感染を続発しやすい。またレンズが大きいためにレンズ-角膜間の涙液の流れが滞りやすく、角膜代謝が障害されまた涙液中のリゾチーム・IgAなどによる感染防御機構も充分働かなくなる可能性がある。レンズが大きいことはまた角膜知覚を鈍化させ自覚に昇らぬうちに障害が進行し重篤な角膜潰瘍に至ることも少なくない。またSCL自身が細菌の培地に類した機能を果たしており細菌・真菌などが沈着しやすい。このような問題点から、SCL装用者の角膜上皮剥離例はHCL装用者に比べやや重篤な例が多いと言われる。また、保存液もレンズ汚染の原因となる他、ケア用品中に含まれる防腐剤がSPK、結膜充血、角膜上皮びらん等をもたらすことがある。これら角膜障害に角膜上皮/実質の線状・樹枝状の混濁、さらには虹彩毛様体炎を随伴することもある。治療としてはステロイド剤やビタミンB2等を点眼する。

<<epithelial splitting>>=superficial epithelial arcuate lesion(SEAL)

角膜輪部に沿った12時方向の弓状の角膜上皮障害SPK。同部に結膜充血及び輪部血管の拡張を伴うことあり。無症候-レンズ装脱後の軽度の異物感。
tightなfitting、大きすぎるレンズ、汚れたレンズ、変形したレンズを装用している中高年者、ドライアイ患者、高含水性SCLを煮沸消毒している者に多い。虹彩付きカラーレンズで、CL内面に虹彩色を着色したものに高頻度で見られる。 UVカットレンズやFRCLで熱消毒を行っている者にも多い。角膜浸潤・潰瘍に進展することがあるので、一時装用を中止し二次感染予防のために抗生物質点眼;SCL再開に当たってはFRCLも考慮。レンズケアはコールド消毒を考慮。
GPC発症のレンズ付着物(蛋白質)との関連は明らかであるが、単純に量だけの問題ではなく、蛋白質の種類・状態、レンズ表面・内部への分布状態も重要な因子である。連続装用例でのGPCは半数例に及ぶが、レンズを外させれば確実に回復する。

<<pigmented slide>>

角膜輪部palisades of Vogt内側の延長上に認められるスパイク状の淡褐色混濁。 1-2mmの長さで櫛状に並ぶ。角膜の慢性酸素不足による上皮細胞分裂能低下により、輪部上皮細胞の急速な移動がもたらされることによる。
よりlooseなfitting、小さなレンズ径、RGPLに変更する。最近の薄型・高含水SCLは従来のSCLより更に乾燥によるtroubleが生じやすい。

<<角膜パンヌス>>

高含水でレンズ厚が薄いものに変更する。アレルギー等がないかどうかも留意。

以上述べてきたように、CLによる角膜・結膜障害の原因としてCLの汚れの問題は大きく、良好なfittingのみならずCLを清潔に保つことがきわめて重要である(→汚れとメインテナンス)。現時点において、高DK RGPLは涙液交換率20%(cf.SCL 2%)、サイズは角膜の約60%(SCL は輪部まで完全に覆う)、蛋白質をほとんど吸着しない、などの諸性質から眼にとって最も良いレンズであると言える。

付:PMMA-HCLの装用障害

<<急性角膜上皮浮腫acute corneal epithelial edema>>

HCL装用時間が許容範囲を越えたり、HCLを装着したまま就眠した場合の急性の酸素不足による。 CL脱後の激しい眼痛、流涙、羞明、異物感、視力低下;瀰漫性SPKを伴うことも多い。

<<edematous corneal formation>>

長期装用者に見られる。角膜の慢性の酸素不足による。角膜中央部に樹枝状の病変を見るが角膜上皮欠損は伴わない。RGPLに変更する。

携帯サイト用QRコード

こちらのQRコードから携帯サイトへアクセスできます。